Web絵てがみ教室(7) 絵手紙こぼれ話~遅咲きのサザンカ
最近、『聖使命』新聞4月号で取材した岐阜県在住のミチオさん(78)という表具師の方から聞いた話です。
ミチオさんは、仕事の傍ら趣味で絵を描き、毎年、小さな絵画展を開くほどの方なのですが、一昨年の秋にこんなことがあったそうです。
その日の朝早く、東京に住む元同僚のTさんという60代の女性から電話がありました。Tさんは、ミチオさんが表具師になる前に務めていたピアノの販売会社で事務をしていた方。何かと思って電話口に出たミチオさんに、Tさんは、いきなり涙声で「いろいろお世話になりました」と語り始め、自らの命を絶つつもりだと言うのです。そして、ミチオさんが説得する間もなく一方的に電話が切られてしまいました。
すぐにTさんに電話をかけ直したミチオさんでしたが、何度かけてもつながりません。Tさんには、すでに成人したお嬢さんが2人いるのですが、何かとトラブルの多いご主人との間がうまくいかず、過去に自殺未遂をしたこともあったそうです。ミチオさんは心配になり、Tさんのお嬢さんに連絡をしたいと思ったそうですが連絡先がわからず、さりとて遠く離れた東京まで訪ねていくわけにもいかず、どうしようかと悩みました。
また、この日、ミチオさんは、午前中からある会合に出席しなければならない用事があったのですが、心配で、もうそれどころではありません。まず自らの心を落ち着けようと、ミチオさんは、近所の畑に自らが建てた山小屋に行きました。
その山小屋の脇でミチオさんは、以前に自分が植えた遅咲きのサザンカ(山茶花)のピンク色のつぼみに目が留まったのです。それまで2年ほど、つぼみをつけながら、咲く前に霜や雪のために、つぼみのまま散ってしまっていた、そのサザンカに…。
そのつぼみを見て、ハタとひらめくことがあったミチオさんは、早速そのサザンカを題材とした絵手紙(画像参照)を描き始めました。そこには、こんな言葉も添えて…
遅咲きの サザンカの蕾(つぼみ)が
はにかむように 頬を赤く染めて
私の咲く日をじっと待っているヨ…って
青い小鳥が そう云ってたと
ソット 話してくれました
そして、ミチオさんは、Tさん宛の絵手紙を、すぐに郵便局から速達で送っ たのでした。
すると、1週間ほどたったある日、なんとTさんから電話がかかってきたのです。聞けば、死ぬつもりだったけれどミチオさんの絵手紙を見て思いとどまり、「私もサザンカのように自分の咲く時期を待ちます…」と。
「電話を受けた時はうれしかったですね。自分なりに、“死んじゃだめだ”といいうメッセージをサザンカの絵手紙に託していましたので、その思いが伝わったかと思うと…」とミチオさん。
Tさんにとっては、千の言葉よりも、心のこもった1枚の絵手紙が心に響いたのですね。
この年の11月、ミチオさんのサザンカが、数年ぶりに美しいピンクの花を咲かせたことも、偶然ではないのかも知れません。
2007/3/30 TK