2007年3月30日 (金)

Web絵てがみ教室(7) 絵手紙こぼれ話~遅咲きのサザンカ

 最近、『聖使命』新聞4月号で取材した岐阜県在住のミチオさん(78)という表具師の方から聞いた話です。
 ミチオさんは、仕事の傍ら趣味で絵を描き、毎年、小さな絵画展を開くほどの方なのですが、一昨年の秋にこんなことがあったそうです。

 その日の朝早く、東京に住む元同僚のTさんという60代の女性から電話がありました。Tさんは、ミチオさんが表具師になる前に務めていたピアノの販売会社で事務をしていた方。何かと思って電話口に出たミチオさんに、Tさんは、いきなり涙声で「いろいろお世話になりました」と語り始め、自らの命を絶つつもりだと言うのです。そして、ミチオさんが説得する間もなく一方的に電話が切られてしまいました。
 すぐにTさんに電話をかけ直したミチオさんでしたが、何度かけてもつながりません。Tさんには、すでに成人したお嬢さんが2人いるのですが、何かとトラブルの多いご主人との間がうまくいかず、過去に自殺未遂をしたこともあったそうです。ミチオさんは心配になり、Tさんのお嬢さんに連絡をしたいと思ったそうですが連絡先がわからず、さりとて遠く離れた東京まで訪ねていくわけにもいかず、どうしようかと悩みました。
 また、この日、ミチオさんは、午前中からある会合に出席しなければならない用事があったのですが、心配で、もうそれどころではありません。まず自らの心を落ち着けようと、ミチオさんは、近所の畑に自らが建てた山小屋に行きました。
 その山小屋の脇でミチオさんは、以前に自分が植えた遅咲きのサザンカ(山茶花)のピンク色のつぼみに目が留まったのです。それまで2年ほど、つぼみをつけながら、咲く前に霜や雪のために、つぼみのまま散ってしまっていた、そのサザンカに…。
 そのつぼみを見て、ハタとひらめくことがあったミチオさんは、早速そのサザンカを題材とした絵手紙(画像参照)を描き始めました。そこには、こんな言葉も添えて…

 遅咲きの サザンカの蕾(つぼみ)が 
 はにかむように 頬を赤く染めて
 私の咲く日をじっと待っているヨ…って
 青い小鳥が そう云ってたと
 ソット 話してくれました

 そして、ミチオさんは、Tさん宛の絵手紙を、すぐに郵便局から速達で送っMichio070330_1 たのでした。
 すると、1週間ほどたったある日、なんとTさんから電話がかかってきたのです。聞けば、死ぬつもりだったけれどミチオさんの絵手紙を見て思いとどまり、「私もサザンカのように自分の咲く時期を待ちます…」と。

「電話を受けた時はうれしかったですね。自分なりに、“死んじゃだめだ”といいうメッセージをサザンカの絵手紙に託していましたので、その思いが伝わったかと思うと…」とミチオさん。
 Tさんにとっては、千の言葉よりも、心のこもった1枚の絵手紙が心に響いたのですね。
  この年の11月、ミチオさんのサザンカが、数年ぶりに美しいピンクの花を咲かせたことも、偶然ではないのかも知れません。

2007/3/30 TK

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2006年12月20日 (水)

Web絵てがみ教室(6) 絵てがみ愛好家、Nさんの場合

 先日、東京在住の教師で画家のNさんとある会合で同席し、その時に聞いた話を紹介します。
 Nさんは、自分が尊敬するある方が毎日遠方に住む母親に絵てがみを送っていると聞き、自分も遠く離れた天草に住む両親宛に毎日、絵てがみを送ることを決心。以来、1年以上、毎日欠かさず1枚ずつ絵てがみを描いては、ポストに投函されているそうです。

 絵てがみの内容は、昼食に食べたカレー、おやつに出された“せんべい”1枚など手近なものを万年筆で輪郭を描いて、色鉛筆で簡単に色づけしているとか。この日、私が見せてもらった絵てがみは、会合が行われた会館にある彫像を軽く万年筆でスケッチしたもの。その絵の横に、「○○○にて」と簡単に言葉が万年筆で添えられていました。
 これまでに出した絵てがみは、すでに400枚を超えたとか。すごい量ですねぇ。

 Nさんの絵を見て、毎日続けるコツは、芸術作品を作ろうと力まないでも、興味がわいた身の回りのものを気軽に描いて、簡単な言葉を添えればいい――ということだと思いました。「“今日は寒い一日でした”とだけ書く時もありますよ。それだけでも、両親には伝わるものがあると思います」とNさん。
 絵てがみを送りはじめてから一度だけ帰省したことがあるそうですが、Nさんのご両親は、Nさんから送られてきた絵てがみを、ハガキ用のアルバムに大切に保管されていたそうです。ご両親にとってこのアルバムは、何ものにも替えられない“宝物”なのでしょうね。

 皆さん、絵てがみは距離を超えて、心と心をつなぐ見えない“かけ橋”の役割を果たします。たとえ、絵に添える言葉が「元気です」のひと言だけでもいいと思います。
 目についた身の回りのものを絵日記を描くつもりでハガキにスケッチして、離れて暮らす家族、友人、知人に届けてみませんか?
 きっと、絵の上手下手を超えて、あなたのあたたかい思いが相手の方に伝わると思いますよ。(TK)

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2006年12月17日 (日)

バナー用画像を作りました

Photo 今回、当ブログの名称を「アトリエTK」から、
「絵てがみ教室~アトリエTK」に改めたことを機に、
リンク用のバナー画像を作ってみました。
もし、個人のブログやウェブサイトをお持ちの方は、このバナーを
使って当ブログにリンクを張っていただければ、ありがたいです。

また、お気づきだと思いますが、MTさんからアイデアをいただいて、
カタログで掲載画像を一覧できる「ゲスト・ギャラリー」と「TK・ギャラ
リー」を作りました。

「ゲスト・ギャラリー」を個性あふれる作品で埋め尽くしましょう!

TK

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2006年12月 1日 (金)

Web絵てがみ教室(5) 年賀状

絵てがみで年賀状

今回は、絵てがみ風の年賀状の作り方について説明します。
来年の干支(えと)は、猪(イノシシ)ですから、これを題材にします。
制作の手順は以下の通りです。

1.資料集め

  イノシシが身近にいるという方は珍しいでしょう(いない?)。ですから、
 まずは イノシシがどんな形をしているかを図鑑などで調べます。
  「いちいち本で調べるのは手間」という方にお勧めなのは、よく写真店や
 コンビニなどに置いてある、年賀状印刷のサンプル。
  その道のプロが手がけただけあって、多種多様なイノシシのイラストが
 掲載されていますので、絵を描く上で大変、参考になります。

2.制作の手順

  絵手紙用のはがきか、年賀用の官製はがきを用意します。
   Katei00_2
手順は前回紹介した「柿」の場合とほぼ同じです。
まず。イノシシの体の部分の輪郭を墨で描きます。



Katei01 次に色を塗る前に、絵に添える言葉を書きます。
今回は、「猪突邁進」という言葉もあるくらい、目標
に向かって突き進むイノシシのイメージを自分の
新年の抱負に重ねて、写真のような言葉を選びました。

Katei02 この段階で、親イノシシにキバをつけたいと思った
ので、キバをつけ加えました。



Katei03 次に、前回も登場した「裏ワザ」であるクレヨンを
取り出し、イノシシの模様を茶色で描きます。



Katei04 次に、イノシシの子供の体に黄土色と茶色
混ぜてつくった色を塗ります。そして、親イノシシに
は、少し茶色を濃くした色を塗ります。


07nenga01次に、スピード感を出すために、黄緑色と黄色
背景に短い線を引きます。
最後に、元日の日付とハンコを押せば、完成です。


3.年賀状あれこれ

 
次に、別のパターンの年賀状をいくつか紹介します。

07nenga02 縦型パターン。しかも、上記の「猪突邁進」の
イメージとはちょっと異なって、「前に進むだけじゃ
なく、たまには振り返ることも大事」という視点で
言葉を添えています。(自分の生き方に合わせて、
自由に言葉を選ぶといいです。その人の個性が
出ますから!)

07nenga03_1 これは、絵てがみというよりか、自由に描いた
絵を年賀状にするケース。最初に、クレヨンで文字
とイノシシの絵を描いて、その後、水彩絵の具を
上から塗って、水をはじかせる効果を使っています。
なんか、小学生の絵みたいですが…。
まぁ、「絵てがみ」という枠にこだわらず、楽しんで好きに描けば、
その楽しさが送った相手にも伝わるものではないでしょうか。

04nenga 最後は、私が2004年に出した年賀状を紹介します。
サルの好物!?のバナナを小道具に、「ひと皮むけて…」
との言葉を添えました。
 ちなみに、これは、和紙に絵を描いたものをスキャナー
で読み取って画像化し、それを「筆まめ」というソフトの
文面に配置して、差出人の住所・氏名などを活字で加えました。
こうした、手書きとパソコンを組み合わせた使い方もできます。

以上、あなたの今年の年賀状づくりの参考にしていただければ
幸いです。

TK

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2006年11月28日 (火)

Web絵てがみ教室(4) 柿を描く

Kaki00(1)墨を用意する
墨をするか墨汁を用意し、小皿に墨をたらして
水で少し薄める

Kaki01(2)彩色(さいしき)筆を用意する
彩色筆を用意して、柿のアウトラインを描く

Kaki02_1 (3)柿の蔕(へた)のアウトラインを描く
興味を抱いた場所から描き始める

Kaki03(4)細かい線は面相筆を使う
蔕の細かいところの線は、細い筆を使う
面相筆(めんそうふで)が便利

Kaki04(5) 蔕(へた)の内側の細かい線を描く
へたの特徴である細かい線を、面相筆
を使って描く

Kaki05 (6)柿の外周を描く
ゆっくりと彩色筆を使って、柿の外周を丸く描く

Kaki06(7)色をつけるための筆を用意
いよいよ着彩。墨をつけた筆だと色が濁るため
絵の具用に2本ほど、彩色筆(左)、水彩筆(右)を用意。
Kaki07_2
(8)きみどり色と黄土色を混ぜた色をへたの外側に塗る


Kaki08(9)へたの内側には、オレンジ色
と黄土を混ぜたものを塗る
※ へたの部分でも微妙に色合いが異なるので、自分が見て感じた色を
  塗る

Kaki09_2(10)裏技(その1)
ここで、なぜか白色のクレヨンが登場。さて、何に使うでしょうか?


Kaki10 (11)ハイライト(光った部分)を白いクレヨンで描く
柿の赤みを帯びた部分を塗る前に、白く光った部分をクレヨンの白で描く
(分かりやすいために、写真では赤い色を使っています)

Kaki11 (12)柿の本体の部分にオレンジ色とバーミリオン(朱色)を混ぜた
色を塗る

(あら不思議!白いクレヨンを塗った部分が水をはじき、白く浮かび上がる)

Kaki12(13)文字を入れる
色を塗った部分を乾かしている間に、何か心に思い浮かんだ言葉を書く
今回は、柿の丸さと円満な心をかけて、このような言葉を選びました。

Kaki13(14)へたや本体に濃い色を塗る
1回目に塗った色が完全に乾いた後、その上から、濃い色を重ねる
そうすると、柿に立体感が出てくる

Kaki14 (15)ハンコを押して完成
最後に、自分のハンコを押して完成。当初は、文字の下にハンコを
押すつもりでしたが、画面が重くなってしまうことに気づき、ハンコは
右上に押すことに。全体のバランスを考えてハンコを押すことがポイントです。

みなさん、いかがでしたか?
季節は秋。紅葉の葉、果物など身近な題材を選んで、絵てがみを
描いてみませんか?

もし、よかったら、あなたの絵てがみ作品をデジカメやスキャナーでデジタル化して
「アトリエTK」にメールで送ってくださるとうれしいです。(^[^)

次回は、「絵てがみ風年賀状」の作り方をご紹介する予定デス。

TK
   

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2006年11月15日 (水)

Web絵てがみ教室(3) その他の道具

その他の道具

Hissen1_1 (1)筆洗

絵の具などで汚れた筆を洗うための筆洗(ひっせん)は、通常、上のようなプラスティック製のものを使いますが、よくイチゴなどの果物を入れてスーパーなどで売Hissen2_3 られている透明容器(左写真)などで代用することもできます。


Palet_2 (2)絵の具

絵の具は、通常、水性のものを使います。私は、左の写真のような
パレットに透明水彩絵の具を入れて使っています。
絵てがみでよく使われる絵の具に、日本画などで使う「顔彩(がんさい)」
Palet2 があります。これも、画材店の「絵てがみコーナー」でよく見かけますが、基本的に水彩絵の具と同じだと考えてください。私は、左の写真のような手のひらに載る「顔彩パレット」を普段、携帯し、旅先などでスケッチする際に使っています。

Plate2_1 (3)パレット
そのほか、左の写真のような、パレットや小皿なども、絵の具を
解く時に使いますので、用意してください。

Suzuri_1(4)墨と硯
また、絵てがみは、墨を使う場合が多いので、墨と硯(すずり)も用意
した方がいいでしょう。いずれも、小さなものでいいと思います。


Postcard_1(5)はがき
次に絵てがみを描く用紙は、通常、郵便局で売っている官製はがき
でも結構ですが、絵の具をよく吸収して描きやすい「画仙紙」という
ものを使った「絵てがみ用はがき」も市販されていますので、それを
使うと便利です。(20枚入で400円くらいから)

Indei_1(6)ハンコ、印泥
後は、筆に付着した絵の具や水をふく雑巾(ぞうきん)のほか、
左の写真のような、ハンコ、印泥(いんでい、朱肉)などもあると
本格的な絵てがみになります。

以上が、絵てがみで使う基本的な道具です。
例えば、ハンコなどは自分で消しゴムを使ってオリジナルなものを作る
ことが可能ですし、道具は、工夫次第でどうにでもなるもの。
どうぞ、楽しみながら作ったり、用意されたらいいと思います。

TK


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2006年11月13日 (月)

Web絵てがみ教室(2) 筆の選び方

Brush 筆の選び方

まず通常、「絵てがみ」で使う筆を一通り紹介します。
写真の1~7の筆をご覧ください。
1と2は、「彩色(さいしき)筆」です。これは、用途が広い筆で、
文字を書いたり、色を塗ったり、輪郭を描いたりと、要するに、何に
でも、使える筆。ぜひ、最低でも1本は欲しいです。
3は「版下筆」、4は「面相(めんそう)筆」です。いずれも、細い線を
描く時に便利です。先が、細くとがっています。
5と6は、「水彩用筆」。イタチ系の動物の毛を使ったセーブル、コリン
スキーなど高級なものから、安価なナイロン製まで、多種あります。
水の含みがいい筆なので、これも何本かは持っていたいもの。
最後の7は、「平筆(ひらふで)」。画面にムラなく塗りたい時に便利な
筆です。ポスターを描いたりする際によく使います。

初心者の方は、中くらいの太さの「彩色筆」を1本、細い「面相筆」を1本
中くらいの「水彩筆」を1本、の最低3本くらいは、そろえておきたいところ。

ただ、注意したいのは、墨を使う場合、水で洗ってもなかなか墨の色が
とれないので、できれは、墨専用の筆を用意して、絵の具用の筆と分け
て使った方が、絵の具が濁らなくて済みます。

また、旅行先でのスケッチなどに便利な、水彩用の「水筆ペン」(呉竹社)も
便利(http://www.craftduo.co.jp/KWSC/index.aspx)。

このほか、割り箸(ばし)の先をカッターナイフで削って作る「割り箸ペン」
なども、細い文字を書いたり、ペン画風の味が出て面白い道具です。

こうした筆を入れる専用のプラスティック・ケースも市販されています(写真)。 Brush_case_1
今回紹介した筆は、画材店か大きめの文房具店で取り扱っています。
購入に際して迷うようでしたら、気軽に店員の方に聞けばいいと思います。
きっと、深切に教えてくれると思いますよ。

TK

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2006年11月12日 (日)

Web絵てがみ教室(1) はじめに

 はじめに

 先日、「第1回絵てがみ教室」を開いたばかりですが、
職場などで「絵てがみを始めたい」という声をちらほら耳にします。
 世間にも「絵を始めてみたい」という人は案外多いのかもしれませんね。
 そんな方にぴったりなのが、まさに「絵てがみ」だと思います。
 だって、「絵てがみ」の創始者・小池邦夫さん自らが、絵てがみの極意と
して「へたでいい。へたがいい」とおっしゃっているのですから、絵を勉強し
たことがない方でも、誰でも気楽に始められます。

「絵てがみ」と一口に言っても、十人十色、作風も千差万別です。
ようするに、どんな絵でもOKということ。
 でも、皆さんが「絵てがみ」という言葉から連想されるのは、きっと墨を
使った墨彩画に言葉が添えられたもの、ではないでしょうか。
 確かに、新聞や雑誌でよく見かける「絵てがみ」にそうした作風のものが
多いのは事実。でも、私は、ハガキに絵を描いてそれを人に送れば、どん
な作風のものだって「絵てがみ」だと思っています。
 ですから、鉛筆やペンで描いたっていいし、色鉛筆やクレヨンで彩色して
もいい。まずは、身近にある自分の使いやすい道具を使ってみるといいと
思います。

 絵は、1本の線を引いても、○を描いても、その人の個性が出ます。
それがいいんですねぇ。それが、顔の表情などと同じように相手に伝わる
のです。自分の作品を見て、稚拙に思えたって全然気にすることはありま
せん。その作品にも、きっと「その人らしさ」が出ているはずですから。
「へたがいい」と開き直って、興味のある題材を選んで、まずは描き始めて
ください。

 これから、このWeb絵てがみ教室で、「絵てがみ」初心者の方のために、
道具のそろえ方からハンコの作り方まで、順を追ってアドバイスさせて
いただきます。

一緒に、絵と文字で表現する喜びを味わいましょう!

TK

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