「飾りで気を引かない。本の個性を顔にする」――装丁家の鈴木成一氏の言葉だ。
氏は、その本の個性を知るために、本の内容を熟読することから仕事を始める。
装丁の依頼は、実に年間700冊以上に及ぶ。1日2冊ペースで仕上げる計算だ。
毎月締め切りを待つ本は、実に60冊。
氏の一日は、朝5時に起床し、まず仕事の本を読書することから始まる。
私が驚いた氏の言葉、
「“本として、こうなりたいんだけどね”みたいなものが聞こえる」
「そうであるもの向かって、彫刻していくような感覚ですね」
氏は、装丁を手がける本と対話しながら、デザインを考えているのだ。
だから、一切、流行に左右されない。答えは本の中にしかないと思うから。
番組では、氏が手がけた数多くの書籍の映像が紹介されたが、ただ一人の人物が手がけたデザインとは思えないほど、多種多様だ。それは、自分を殺し、本の個性に徹するからこそ生まれる多様さ。
「装丁には正解がある」
これが信条だという。だから正解が見つかるまで、妥協せず、締め切りが多少過ぎようとも、その答えを求めつづける。
「“これこそ正解だ”というものがつかめないと、つっぱしれない。情熱を傾けられないというか、疑ってやっているとダメですね。それが本当に正解か?と言われると自信はないですが、私は“それが正解だ”と思ってやっていますね」
その正解が見つからず、行き詰まった時には、未完成な装丁を施した書籍を仕事のデスクの横に飾って、ほかの仕事に熱中するという。なぜか?
「気をそらすことで、気づくっていいますかね、違和感を徹底的に自分の中に植え付けるみたいな…。ずっと向き合っていると、見えるものも見えない」
「その作品(装丁)に対して、無意識な状態に身を置いて、フイに見た時に何を感じるか、それを探る…」
要するに、心を新鮮な状態にして、未完成の装丁と向き合うためなのだ。
これは、いくつもの作品を並行して制作する画家の工夫に似ている。
では、何が氏の情熱をかき立てているのか?
「(人から仕事を)頼まれるってことは、期待され、信頼されているわけなんですね。それが大事なんですよ、やっぱり。だから、その関係を壊さない。ちゃんとした仕事をこなしていくということなんですね」
氏は、有名になるまでの10年あまり、フリーデザイナーとして不遇な下積み時代を過ごした。仕事をしても報酬を払ってもらえなかったり、いったん頼まれた装丁の仕事を、作家のわがままか何かでキャンセルされ、別のデザイナーにその仕事を奪われた苦い経験をもつ。
だから、組織に属さない彼は、何よりも仕事相手との信頼関係を重視する。
最後に、対談相手の脳科学者・茂木健一郎氏が、「情報化時代の中で、どうやったら“おっ”と人を立ち止まらせることができますか?」と問うと、
「ワクワクしたものって人に伝わりますよ」と鈴木氏は答えた。
これだと思った。
私もこのブログで絵手紙やスケッチを掲載しているが、確かに自分でワクワクして描いたものは、反響もいい。これは、創造的な仕事全般に通じることではないだろうか?
今回、NHK総合テレビ「プロフェッショナル~仕事の流儀」で放映された装丁家・鈴木氏の仕事ぶりを見て、強く感じたことは、何よりも「自分の手応え」を大切にしていること。彼の言葉で言えば、本の中にあると同時に、自分の心の中にある「正解」だ。他者の反応ではない、まず、自分の心の中にある一つの理想型が相手なのだ。その「手応え」がしっかりしたものなら、必ずほかの人にも訴えるものがある――そんなモノづくりの原点ともいうべき信念を感じた。
この仕事をする上で、「手応え」を大切にすることについては、私が尊敬する画家の中川一政氏も語っているところでもあるので、別の機会に紹介したいと思う。
まだ、番組を見ていない方には申し訳ないが、自分の感動がさめない間にご紹介したかったので、番組の内容を紹介しました。どうか、お許しください。
2007/05/24 TK
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